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教会誌「こころ」巻頭言
Kokoro
2018年 9月 2日(日曜日)

日本スカウトジャンボリーと、皇太子さまのお言葉

教会誌「こころ」2018年9月号より

 

主任司祭 パウロ三木 稲川圭三

 

8月6日(月)から8日(水)の三日間、第17回日本スカウトジャンボリーに参加してきました。日本スカウトジャンボリーというのは、ボーイスカウト日本連盟の主催するキャンプ大会であり、国内におけるボーイスカウトの最大の行事です。4年に一度開催されます。大会期間は8月4日(土)から10日(金)までの一週間ですが、中日の7日(火)に司教ミサが行われるので、わたくしはそれに合わせての参加となりました。わたくしがこの大会に参加するのは、数年前に大司教さまから「ボーイスカウト東京支部の指導司祭をするように」という任命を受けているからです。

今回の大会は石川県珠洲(すず)市にある、「りふれっしゅ村・鉢が崎」というレジャー施設を会場にして行われました。キャンプ場、野球場、テニスコート、ゴルフ場などを備えた総合施設で、入り口からスカウトたちのキャンプサイトになっている一番奥のエリアまで普通に歩いても、優に20分はかかるという広大な敷地でした。明治神宮と代々木公園を合わせた位の広さの場所を想像していただいたらよいと思います。石川県珠洲市というのは、能登半島の一番先端です。わたくしは石川県に足を踏み入れるのは生まれて初めてでしたので、ちょっとわくわくしていました。出発日の前日まで中高生会の夏合宿があって、合宿が終わってからリーダーたちと反省会をし、食事をしてビールを飲んで、教会に帰ったのが夜の12時を過ぎていましたので、それから旅支度を整え、2時半頃に寝て、朝一番に羽田空港に行くというハードスケジュールでした。羽田から能登空港までは、約1時間のフライト。空港でカトリックスカウト団の指導者の方4人と待ち合わせて、レンタカーで大会会場に向かう計画です。車で更に約1時間の道のりでしたが、青々とした田んぼの中を通って行くのどかなルートで、能登空港が「のと里山空港」という愛称で呼ばれる理由がよくわかりました。

さて、会場に到着するとスカウトの制服を着て、色とりどりのネッカチーフ(団によって色やデザインが異なります)を身につけた若者たちで溢れ返っていました。今回の参加者は1万3千人。参加者は日本全国から集まった、小学校6年生〜中学生のボーイスカウト、高校生年代のベンチャースカウト、18歳〜25歳の年代のローバースカウト、そして指導者たちです。海外からも600名の参加があったということです。麻布教会の港5団からも、指導者、大会スタッフを含めて25人が参加しました。地元の子どもたちも、ビジターという資格で大勢参加していました。

大会期間中の参加者の一日のスケジュールは次のようなものです。

起床    6:00
朝食    7:00
午前の活動 9:00〜12:00
昼食・休憩 12:00〜13:30
午後の活動 13:00〜16:30
夕食    18:00
夜間の活動 19:30〜21:00
就寝    21:00

午前、午後に活動の時間がありますが、この時間帯に大会本部が準備した様々なプログラムが展開されていて、それにグループ毎に自由に参加していくという形になっているようです。プログラムは会場の様々な場所で開催されているので、スカウトたちはプログラムからプログラムへと、移動しながら活動に参加していました。互いにすれ違う度に「こんにちは〜」「こんにちは〜」と、元気に声を掛け合う姿が、至る所で見られました。

さて、ボーイスカウト運動の創始者であるベーデン・パウエル(1857-1941)〈以下「B-P」と呼びます〉は、イギリスのロンドン生まれで、その父は大学教授で、また教会の牧師でした。B-Pは単純で深い信仰の持ち主で、すべての人が信仰を持たなくてはならないと考えていました。それでB-Pは皆が信仰を持つようにと働きかけています。また、彼自身はキリスト教徒でしたが、他の宗派・宗教への寛容がなければ、その宗派が、この地上に神の国をもたらすのを助けることはできないと考えていました。それでボーイスカウト運動には「信仰奨励」という明確な柱が掲げられ、信仰の奨励と、他の人の信仰への尊重が奨励されています。日本スカウトジャンボリーでは、その目に見えるしるしとして、会場内に「信仰奨励エリア」が設けられ、その中に、各教宗派による展示や祈りの場が作られました。広場の両側にテントがずらりと並び、そのひと張りひと張りが各教宗派のブースとなって、思い思いの展示物を出してアピールしていました。今回ブースを出していた教宗派は以下の通り。

神道からは「神社本庁」、仏教からは「天台宗」「浄土真宗本願寺派」「真宗大谷派」「高野山真言宗」「浄土宗」「立正佼成会」「曹洞宗」「孝道教団」「日蓮宗」「本門沸立宗」、キリスト教からは「日本聖公会」「日本カトリック教会」「日本基督教団」「末日聖徒イエス・キリスト教会」(正しくはキリスト教ではありません)、あとは「金光教」「世界救世教」「天理教」です。こんなに多くの教宗派が、理屈や議論とは関係のないところで一緒に集まるということは、他には機会がないと思いました。わたしたちカトリック教会は、ブースに立ち寄ったスカウトたちに、ビーズを使ってロザリオ作りを教えたり、また、「ロザリオ塗り絵カード」を用意しておき、「困っている人」のことを思って祈りながら、ロザリオの珠に色を塗っていく、という作業をしてもらったりしました。書いてもらったカードは、七夕の飾りのような要領で、用意されたツリーにくくりつけてもらいました。風になびくカードの数は、次第に増えていきました。

中日である7日(火)は「信仰奨励の日」で、通常の「午前、午後のプログラム」はお休みです。9時に「教宗派を超えた集い」が行われ、信仰を奨励するB-Pのメッセージを聞き、皆で祈りました。その後は、それぞれの教宗派に分かれての礼拝となりました。カトリック教会は、多目的広場という場所を借りてミサを行いました。主司式は、名古屋教区・松浦悟郎司教(石川県は名古屋教区なので)が行いました。また、地区のスカウト担当司祭が共同司式をしました。宮崎神父(全国)、 竹延神父(大阪)、内藤神父(横浜)、今泉神父(金沢)、松本神父(吉祥寺)、稲川神父(東京)が、炎天下の中、900名近いスカウトたちと一緒に平和を祈りました。

「信仰奨励の日」の夜は18時20分から「ジャンボリー大集会」が行われました。この催しが大会のメインイベントでもあります。会場は「アリーナ」と呼ばれる草原でした。野球場が二つくらいは入りそうな広大な広場の手前に大きな野外ステージが設けられ、奥のほうが緩やかな草の斜面になっていて、ローマのコロシアムの観客席のような地形になっています。会場を目指して、制服を着たスカウトたちが、北から南から続々と集ってきて、広場と斜面を埋め尽くしていきます。まだ明るいうちからスタートしたプログラムでしたが、若者たちのダンスや太鼓、宇宙飛行士・野口聡一さんの挨拶、自衛隊のブラスバンド演奏などが進められる中、次第に日 も傾き、空に星が見え始めました。

夕焼けの赤がすっかり収まったころ、大集会会場に、皇太子さまが到着されました。ご挨拶のために壇上に上がられると、開口一番、「挨拶に先立ち、この度の平成三十年七月豪雨により、亡くなられた方々に哀悼の意を表すると共に、ご遺族と被災された方々にお見舞いを申し上げます。被災地の復旧が一日も早く進むことを願っております」と言われました。この時、会場は水を打ったように静かになりました。SPが制したわけではありません。さっきまで、司会者が「盛り上がって行きましょう。イェーイ!」といって沸いていた1万3千人の群衆が、本当に物音一つしない静けさに包まれました。そしてそれは、ただ音がないというだけでなく、意味のある沈黙であると感じられました。この時わたくしは、(ああ、この方は、心からそう思い、祈っておられるのだ)とひしひしと感じました。集まった小学生や中学生にも、そのことが伝わったのではないかと思います。そして、この方がなさっていることは今生きている人だけでなく、亡くなった方々の霊をも慰める祭司のつとめなのだと感じさせられました。このあと皇太子さまは、ご自分も参加者の皆さんと同じ年齢の時にジャンボリーに参加し、野営体験を通して多くを学んだこと、等を話され、わが国と世界の青少年の健全な育成を願って、話を結ばれました。「信仰奨励の日」の夜の集いで、自分はもっと多くの方のために祈らなくてはならないと、改めて感じさせられた日本スカウトジャンボリーでした。

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